1. HOME
  2. 特集
  3. フラムクーヘンの歴史、パン窯から生まれた「炎のケーキ」

特集

フラムクーヘンの歴史、パン窯から生まれた「炎のケーキ」

薄く伸ばした生地に、白いフロマージュブラン。

そこへオニオンとベーコンをのせ、高温の窯で一気に焼き上げる。
見た目だけなら「薄いピザ」にも見えるフラムクーヘンですが、そのルーツをたどっていくと、ピザとは少し違った物語に行き着きます。
フラムクーヘンは、最初から一つの料理として考案されたものではありません。
その始まりにあったのは、パンを焼くことでした。


パンを焼く日は、特別な日だった

フラムクーヘンの故郷として知られているのが、フランス北東部のアルザス地方。
なかでもストラスブール北西部に広がる農村地帯、コッヘルスベルクは、フラムクーヘン発祥の地として語られています。
現在のように、家庭のキッチンにオーブンがある時代ではありません。
かつて農村では、大きな薪窯で何日分ものパンをまとめて焼いていました。地域によっては、一つの窯を複数の家族で共同利用することもあったといいます。
薪を燃やし、石造りの窯を十分に熱する。

そして、いよいよパンを入れる――。
ところが、ここに一つ問題があります。

窯の温度が見えません。

温度計も、デジタル表示もありません。
薪の量、炎の状態、窯の壁や床に蓄えられた熱。
それらを経験によって読みながら、パンを入れるタイミングを判断する必要がありました。
窯が熱すぎればパンは焦げてしまう。
反対に温度が低ければ、うまく焼き上がらない。
そこで登場したとされるのが、パン生地を薄く伸ばした一枚でした。


「この窯、もうパンを焼ける?」

パンを焼く前に、生地の一部を薄く伸ばして窯へ入れる。
高温になった窯なら、薄い生地はわずかな時間で焼き上がります。
焼ける速さを見ることで、パンを入れてよい状態なのかを判断する。
つまり、フラムクーヘンの原型には、窯の状態を確かめるためのテストという、とても実用的な役割があったと伝えられています。
パンを焼くにはまだ熱すぎるほどの窯。
しかし、薄い生地を焼くには、その強烈な熱がちょうどいい。
そこでパン生地を薄く伸ばし、農家にあった乳製品を塗り、オニオンやベーコンなどをのせて焼く。
高温だから、焼き時間はほんの数分。
炎が生地の縁をなめ、ところどころに香ばしい焼き色がつく。
パンを焼くために作った窯の「余分な熱」が、一つの料理へと変わっていったのです。


なぜ「炎のケーキ」なのか

ドイツ語では「Flammkuchen(フラムクーヘン)」。
「Flamm」は炎、「Kuchen」はケーキや焼き菓子を意味する言葉です。
直訳すれば、「炎のケーキ」。
アルザス語では「Flammekueche」、フランス語では「Tarte flambée(タルト・フランベ)」と呼ばれています。

ただし、ここでいう「flambée」は、料理にお酒をかけて火をつける「フランベ」とは意味合いが異なります。
主役はあくまで薪窯の炎。
まだ炎の残る非常に高温の窯へ入れ、短時間で焼き上げる。
だからこその「炎のケーキ」なのです。


だから、生地は薄い

フラムクーヘンを食べると、まず感じるのが生地の軽さです。
ふっくらとしたパンのような厚みではなく、非常に薄く、焼き上がりはパリッと香ばしい。
これも、その成り立ちを考えると自然です。
もともとはパンを焼く前後の高温の窯を利用して、短時間で焼くもの。
厚い生地をじっくり焼くのではなく、薄く伸ばした生地を一気に焼く。
フラムクーヘン独特の薄さと食感は、単なるレシピ上の特徴ではなく、パン窯から生まれた料理であることの名残ともいえます。


農家の料理から、アルザスの名物へ

長い間、フラムクーヘンは農村の家庭料理でした。
現在のように「アルザスへ行ったら食べたい名物料理」として広く知られていたわけではありません。
大きな転機となったのは20世紀後半。
1960年代ごろからレストランでも提供されるようになり、アルザスを代表する料理として広く知られていきます。
興味深いのは、フラムクーヘンが広まっていった時期が、ヨーロッパでピザが一般化していった時期とも重なることです。

薄い生地に具材をのせて焼く。
確かに、見た目は似ています。
けれど、その出発点は違います。
ピザの物語ではなく、こちらはパン窯の物語。
フラムクーヘンを知るうえでは、この違いがとても大切なのだと思います。


コンテナートでは、フロマージュブランで

伝統的なフラムクーヘンには、地域や家庭によってさまざまな乳製品が使われてきました。
コンテナートでは、その白いベースにフロマージュブランを使用しています。
フロマージュブランの爽やかな酸味とコクに、香ばしいベーコンとオニオン。
そして焼き上がりにローズマリーを添えます。
薄く軽い生地だから、クリーミーでありながら重くなりすぎない。

そして、この軽やかさは紅茶ともよく合います。
コンテナートでは、特にロンネフェルトのアッサムバリとの組み合わせをおすすめしています。
アッサムらしいしっかりとした味わいが、フロマージュブランやベーコンのコクを受け止めながら、食後には紅茶らしい余韻を残してくれます。

「フラムクーヘンと紅茶?」
最初は少し意外に思われるかもしれません。
でも、これがなかなかいいんです。


パンになる前の一枚を、紅茶とともに

フラムクーヘンの歴史をたどると、華やかな宮廷料理や有名料理人の名前は出てきません。
あるのは、パン生地と、薪窯と、その日に農家にあった食材。

そして、
「そろそろパンを入れても大丈夫かな」
という暮らしの中の小さな判断です。

温度を確かめるための一枚が、そのまま家族や村の人たちで囲む料理になり、やがてアルザスを代表する郷土料理になりました。
何百キロも離れた日本で、今度は紅茶と一緒に食べられている。
そう考えると、料理というものは面白いものです。
コンテナートでフラムクーヘンを召し上がるときには、ぜひその薄い生地の縁にも注目してみてください。
パリッと焼けた、その一枚の向こう側には、

かつてパン窯の炎を見つめていた人たちの暮らしがあります。