なぜ紅茶は「テイクアウト」に出遅れたのか。東京ドームの芝生前で辿り着いた「1分アジャスト」という答え

TEA journal / Vol.3
コンテナート | 取締役・ロンネフェルト認定ティーマスター 石田明子執筆
スターバックスを筆頭とするコーヒーのサードウェーブが街を席巻する中、紅茶は「持ち歩く(テイクアウト)」という進化に、コーヒーよりも時間がかかった。19世紀ヨーロッパで育まれた「おもてなしの美学」を大切にしてきたからこそ、紅茶は簡単に工程を省略できなかったのだ。ロンネフェルト公認ティーマスターであるコンテナート取締役の[石田明子]が、東京ドームシティの芝生前に「1分テイクアウトスタンド」を仕掛けるまでの道のりを振り返る。
おもてなしの美学と、テイクアウトという新しい舞台
ヨーロッパにおいて、お茶は宮殿のゲストルームにおける最高峰のコミュニケーションツールであり、そのおもてなしの様式は現代の五つ星ホテルにも受け継がれている。丁寧に蒸らす時間そのものが、紅茶の価値の一部だった。
一方で、2010年代後半にはタピオカミルクティーが爆発的なブームとなり、「お茶を街中で気軽に持ち歩く」という新しい文化が一気に広がった。伝統的な紅茶専門店の多くは静観していたが、この動きは「テイクアウトのお茶」という市場そのものを大きく育てることになった。
かき氷という実験場で磨いた「一瞬で仕上げる」技術
その数年間、コンテナートが向き合っていたのは代々木店の「かき氷」だった。果物や食材と紅茶をどう掛け合わせるか、一皿の中でどう味を設計するか。この試行錯誤の中で、私たちは「お茶を冷たく、かつ極上の状態で一瞬で提供する」ための技術と経験を磨いていった。
この経験を1つのビジネスモデルへと昇華させて生まれたのが、東京ドームシティのテイクアウト専門店「MILKTEA」である。出店の際、東京ドーム側の担当者から「テイクアウトの店は数多くあるが、本格的なヨーロッパ系紅茶を気軽に持ち歩ける店は意外と少ない」という趣旨のお話をいただき、そこに市場の余地を感じたことも、出店の後押しとなった。
私たちは、丁寧に蒸らすという紅茶の価値はそのままに、提供までの工程をデータとシステムで見直し、「注文から1分以内」でミルクティーを届けられる仕組みを構築した。
「ポリ茶瓶」が「推しボトル」へ
もう一つ、テイクアウトには物理的な壁があった。一般的な透明プラスチックカップは熱に弱く、香りを立たせるための高温で淹れた紅茶やミルクティーを注ぐことができない。
そこで私たちが目をつけたのが、昭和の駅弁文化に登場していた「ポリ茶瓶」だった。熱湯に耐え、持ち歩きに特化したこの日本の知恵から緑色のワイヤーを外し、MILKTEAのブランドカラーであるリボンを結び、ロゴシールを添えた。
東京ドームシティという「推し活」の文化が根づく場所で、私たちはこのボトルを「推しボトル」として再定義し、お客様が自分の推し色のリボンを選んで受け取れる仕組みへと発展させた。結果、これまでの姿を知らない若い世代にも自然に受け入れられ、支持を広げている。熱湯に耐える構造は、寒い季節に手を温めるカイロ代わりにもなり、洗って繰り返し使えるという実用性も兼ね備えている。
伝統を、今の生活速度へ翻訳する
昭和の駅文化から生まれた「ポリ茶瓶」と、200年の歴史を持つヨーロッパの紅茶文化。一見遠く見えるこの2つを掛け合わせることで、東京ドームシティの芝生の上に、本物のミルクティーを気軽に持ち歩く新しい風景が生まれた。
伝統を手放すのではなく、今の生活の速度に合わせて翻訳する。この考え方が、現在私たちが進めているMILKTEAのフランチャイズ展開の核にもなっている。
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本記事はコンテナート公式コラムの掲載記事です。執筆者プロフィールは石田明子